遺言書の法定記載事項のうち、遺贈に関して別段の意思表示ができる7つのケース~ 贈与や相続・譲渡など資産税[37]
今回は
遺言書の法定記載事項のうち、遺贈に関して別段の意思表示ができる7つのケース
を紹介します。
遺留分の定めに反しない範囲で、遺言によって「誰が、何を、どれだけ相続するか?」を明確に定めておくことで、相続の問題は解決することが多いと思います。
こうしたことを踏まえて、遺言書の記載事項について検討しています。
そもそも、遺言書の記載事項にはどのようなものがあるのかを考えてみます。
「遺言事項の法的効力」について
つまり、遺言書に記載することにより、具体的な法律上の効果が生じる事柄は何かです。
遺言によって法的な効力を与えられる事項は、おおまかには次の3つです。
■ 相続に関する事項(相続分の指定など)
■ 財産の処分に関する事項(遺贈など)
■ 身分に関する事項(遺言による認知・排除など)
遺言の法定記載事項としては18項目があります
このうち12項目は、前回(6項目)、前々回(6項目)に取り上げました。
→ 遺言書を作成する際に、記載事項はどのようなものがありますか?
→ 遺言により推定相続人などの認知・排除をすることができます
今回は、1項目として、遺言で記載すべき「遺贈に関する別段の意思表示」にはどういうものがあるかを紹介します。
① 遺言の効力発生後、受遺者が承認又は放棄をしない間に死亡した場合に、遺言者の意思を反映させることができます
<参考>
民法988条
(受遺者の相続人による遺贈の承認又は放棄)
「受遺者が遺贈の承認又は放棄をしないで死亡したときは、その相続人は、自己の相続権の範囲内で、遺贈の承認又は放棄をすることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。」
② 果実の取り扱いについて
遺贈者の死亡時に、権利は直接受遺者に移転します。その時から現実に引き渡すまでに、遺贈義務者がその果実(たとえば貸家に対する家賃など)などを受け取っていれば、その家賃も不動産と共に引き渡さなければなりません。
しかし、遺言で家賃などの果実の取り扱いについて遺言者の意思を反映させることができます。
<参考>
民法992条
(受遺者による果実の取得)
「受遺者は、遺贈の履行を請求することができる時から果実を取得する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。」
③ 遺言は遺言者の死亡時に受遺者が生存していること前提です。停止条件付きの遺贈についても同様です。しかし、こうした場合に遺言により遺言者の意思を反映させることができます。
<参考>
民法994条
(受遺者の死亡による遺贈の失効)
「遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。
2 停止条件付きの遺贈については、受遺者がその条件の成就前に死亡したときも、前項と同様とする。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。」
④ たとえば、包括受遺者が複数ある場合に、包括受遺者の1人が遺贈を放棄しても、それは相続人に帰属します。包括受遺者の持ち分が増えるわけではありません。しかし、こうした場合を想定して、遺言により遺言者の意思を反映させることができます。
<参考>
民法995条
(遺贈の無効又は失効の場合の財産の帰属)
「遺贈が、その効力を生じないとき、又は放棄によってその効力を失ったときは、受遺者が受けるべきであったものは、相続人に帰属する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。」
⑤ 目的物の権利が、遺言者の死亡時に相続財産に属さなかったときは、遺贈の効力は生じません。ただし、遺贈の趣旨が、その権利が相続財産に属するか否かにかかわらず、それを受遺者に与えるという趣旨であった場合には、遺贈義務者がその権利を取得して受遺者に移転する義務を負うことになります。こうした場合に、別途、遺言により遺言者の意思を反映させることができます。
<参考>
民法996条
(相続財産に属しない権利の遺贈)
「遺贈は、その目的である権利が遺言者の死亡の時において相続財産に属しなかったときは、その効力を生じない。ただし、その権利が相続財産に属するかどうかにかかわらず、これを遺贈の目的としたものと認められるときは、この限りでない。
民法997条
「相続財産に属しない権利を目的とする遺贈が前条ただし書の規定により有効であるときは、遺贈義務者は、その権利を取得して受遺者に移転する義務を負う。
2 前項の場合において、同項に規定する権利を取得することができないとき、又はこれを取得するについて過分の費用を要するときは、遺贈義務者は、その価額を弁償しなければならない。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。」
⑥ 負担付遺贈の受遺者が遺贈放棄した時の定めを遺言に定めることができます。
<参考>
民法1002条
(負担付遺贈)
「負担付遺贈を受けた者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負う。
2 受遺者が遺贈の放棄をしたときは、負担の利益を受けるべき者は、自ら受遺者となることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。」
⑦ 限定承認や遺留分減殺があった場合、遺贈を受ける価額が減少した割合分だけ、負担付受遺者の負担は軽減します。こうした場合に、遺言者の別途の意思を遺言により反映させることができます。
<参考>
民法1003条
(負担付遺贈の受遺者の免責)
「負担付遺贈の目的の価額が相続の限定承認又は遺留分回復の訴えによって減少したときは、受遺者は、その減少の割合に応じて、その負担した義務を免れる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。」
(出所:上の④と⑤の条文に関する説明は「家族法第4版 窪田充見」を引用しています。)
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