事業承継に公的支援がされるのはそもそも何故なのでしょうか?~事業承継・税理士の視点②
水曜日は、税理士の視点から「事業承継」を考えていきます。
事業承継は、そもそも経営者が意思決定で実行するものです。そうするものであれば、本来、事業承継というものは経営者自身が考えていくべきものです。
しかし、公的支援が社会的に必要とされ、税制度においても平成21年度に事業承継税制が新設され、さらに平成30年度には特例が創設されます。
そもそもなぜ事業承継に公的支援が必要とされるのでしょうか?
雇用とGDPの喪失?
中小企業庁の試算によると、今後10年間の間に、70歳(平均引退年齢)を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人となり、うち約半数の127万人が後継者未定。現状を放置すると、中小企業廃業の急増により、2025年頃までの10年間累計で約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる恐れがある。また、本試算をもとに関西の数値を算出すれば、今後10年間で約118万人の雇用と約4兆円が関西から失われる。
(出所:「中小企業の事業承継時におけるM&Aの活用の実態」、近畿経済産業局中小企業政策調査課)
このような指摘は分かりますが、そもそも景気や経済の変動によって雇用やGDPは影響を受けます。
こうして喪失する雇用やGDPの数字は、そもそも事業承継の社会的意義や公的支援が求められる理由には結びつかないように思っていました。
そうした中で、日本公庫総合研究所の村上義昭氏が次のようにその意義と理由を説明されています。理解が進みますので紹介します。
事業承継のそもそもの社会的意義とは?
①(成長性への期待)
経営者の引退を機に、生産性が相対的に低い企業が市場から退出すること。
②(経営革新による企業の業績向上への期待)
多くの後継者が、事業を引き継ぐとそれまでの経営を見直して、新たな取り組みを手がける。それに伴い経営革新により企業の業績向上が期待できること。
つまり、生産性の低い企業が市場から退出し、後継者が経営革新を図り生産性を高める。この結果、社会全体の生産性が向上する。この点に事業承継の社会的意義があると。
私的な行為である事業承継に、公的支援が必要とされるのは何故か?
①(経営者の引退を機に市場から退出するのは、必ずしも生産性が低い企業だけではない)
決定企業(後継者が決定し、後継者も承継している企業)と未定企業(事業承継の意向はあるが、後継者が決まっていない企業)は、両者とも、従業員規模は相対的に大きいとともに業績も良好である企業の割合が高い。両者の規模や業績には大きな差はなく、異なるのは前者には経営者に男のこども数が多く、後者には少ない。
たんに、男のこどもが少ないという理由によって後継者が決まらず未定企業が廃業することは社会的な損失になる。
②(事業承継の前後にリスクが高まる。そのリスクをカバーする必要がある)
経営者の交代により、金融機関が担保の追加を求めたり、仕入れ先が取引保証金を求めたり、新しい経営者の能力がよく分からないことからくるリスクに備えることがある。また経営者が新規事業へ進出する際に融資する場合に、事業失敗のリスクを想定する必要がある。こうした承継の前後に高まるリスクを公的支援によってカバーする必要がある。
(出所:「日本公庫つなぐ 」vol.12 2018年1月号)
村上氏は、政策目的をわかりやすく説明されていて、解説は私にとって有用なものです。これからもその意義を考えていきたいと思っています。
水曜日は、少子高齢化などの社会的な変化を凝視しながら、事業承継について対策や予測を税理士の視点から考えていきたいと思います。
気になるケースがある場合は、お気軽にご相談ください。
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みなさん!今日も春の1日を元気にお過ごしください。
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