「改定前後における介護サービス事業者の収支状況」における「収支差率」について (建議資料から-その2)【介護事業の基礎知識バージョンアップ編】
昨日、平成29年5月25日に財政制度等審議会が取りまとめた「経済・財政再生計画の着実な実施に向けた建議(意見書)」の中の、厚生労働省老健局老人保健課が作成した「介護報酬改定に向けた論点(介護サービス事業者の経営状況)資料Ⅱ-1-13」を取り上げました。その続きの記事です。
この資料では、「介護事業経営概況調査結果」からサービスごとの収支差率を示して、次のように述べています。
「改定前後における介護サービス事業者の収支状況を見ると、多くの介護サービスで収支差率が低下しているものの、プラスを維持しており、特に、訪問、通所などの在宅サービスの収支差率は比較的高水準にとどまっています。」
主な在宅サービスの収支差率(平成27年度) 括弧内は前年度比
・訪問介護 5.5% (△1.9%)
・通所介護 6.3% (△1.4%)
・短期入所生活介護 3.2% (△2.7%)
・認知症対応型通所介護 6.0% (△0.9%)
・小規模多機能型居宅介護 5.4% (△0.2%)
(出所:厚生労働省「平成28年度介護事業経営概況調査結果」)
収支差率が「比較的高水準」と述べているのは、他の指標と比較しているからです。
資料には、比較している指標が次のとおり記載されています。
・全産業 4.2%(+0.1%) … 財務省「法人企業統計」から
・中小企業 3.6% (+0.9%) … 中小企業庁「中小企業実態基本調査」から
「法人企業統計」の全産業「4.2%」、「中小企業実態基本調査」の中小企業「3.6%」という指標は、「売上高経常利益率」という経営指標です。売上高に占める経常利益の割合を表しています。
一方で、比較されている介護事業の在宅サービスの「収支差率」というのは、売上高に占める税引き前当期利益」です。本当のところは、両者が対象としている利益(経常利益と税引き前当期利益)は違います。
それぞれが対象としている利益はどのような意味があるのでしょうか?
1 経常利益とは
⇒ 営業利益(本業で稼いだ利益のことです)に本業以外で発生した利益である「営業外収益」や費用である「営業外費用」を足し引きした利益のことです。略して経常(ケイツネ)と呼ぶことがあります。
2 税引き前当期利益とは
⇒ 経常利益に、一時的な利益である「特別利益」と費用である「特別損失」を足し引きした利益が「税引き前当期利益」です。特別利益や特別損失とは、毎年発生するものでなく、例えば子会社や不動産の売却によって生じた一時的な利益や損失などが該当します。
こうして見ていきますと、企業の経常的な利益水準を示す売上高経常利益率と介護事業の収支差率は相違する指標です。
一時的な利益や損失を除く利益である経常利益から算出している売上高経常利益率を比較対象とすることは、合理的な理由はあるとは思います。
ただし、各々の指標は、同じ利益を対象としているのではないことは理解しておく必要があると思っています。
事業により利益率が相違するのは、経済のダイナミックさであるとは思いますが、介護事業の収支差率の適正性を考えるにあたって、全産業の平均の利益率を比較検討するのは、社会保険制度という枠組みからの必要な要請なのでしょうね。
火・木・土曜日は、最近は「介護事業の基礎知識バージョンアップ編」として、記事を紹介しています。
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【介護事業の基礎知識バージョンアップ編】は次のとおり。
「介護サービス事業者の経営状況について」はこちら(8/12)
「介護保険や介護事業について私は情報収集をどうしているから?」はこちら(7/27)
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